曲げ加工前のブランクのみ共通という
設計法の注意点
今回のシリーズでは、木製のスライドゲート機構を参考に、金属製部品を使って高級感を出すとともに信頼性の高い製品の設計と製図をする過程を紹介します。シリーズ第3回目のこの記事では、固定側板を機械部品に変更する工程やその流れを考えていきます。
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1.木製固定側板③の機能ばらし
板金部品の場合、曲げ方向のみ異なる部品を設計することがよくあります。しかし、同じブランクで曲げ方向のみ異なると、それぞれの部品でダレとカエリ方向が逆になるため、手が触れると怪我をする、配線が触れると断線につながるなど安全性を確保できない可能性があります。ダレとカエリ方向が逆になる場合は、図面上で安全性を担保するための図面注記が必要になります。
ブランクとは 型で外形や穴などを打ち抜いただけの平板状のもの。 |
1) 固定側板③の周辺構造
前回は、木製製品のベース板①とゴム足②について解説しました。
今回は木製の部品のうち、固定側板③の機能を確認しましょう。共通部品である2枚の固定側板③が、ベース板①に差し込まれて固定されています。固定側板③の丸穴と長穴にはそれぞれ軸⑥が挿入され、最終的に天板⑧と後ろ板⑨が取り付けられて剛性を確保する構造になっています(図3-1)。
前々回(製品設計と製図の過程-そなたは木で、私は金属でつくろう。ともに動かそう!)の図1-3で説明したように、固定側板③をベース板①に軽圧入気味に差し込んでいるだけの構造のため、差し込みを繰り返すと篏合(かんごう)部が緩くなり外れやすくなるという不具合があります。
2.木製パーツ類の投影図例
オリジナル設計への配慮として木製部品の寸法記入例は省略し、投影図からポイントのみを解説することとします。
1) 木製の固定側板③の投影図
正面図の外周に突起が3か所、上側に丸穴と長穴があります。
寸法基準は次の2か所です(図3-2)。
- 取付基準面1…正面図右側のベース板①と接する面
- 取付基準面2…後ろ板⑨と接する面
2) 金属部品に設計しなおした構造例
固定側板R❸、固定側板L❹と周辺部材の関係を、2次元組立図と3次元組立図で確認しながら設計意図を説明します(図3-3、図3-4)。
【設計意図】
固定側板R❸と固定側板L❹はベース板❶に、それぞれ1本のねじで固定する構造としました。ただし、1か所のねじだけでは固定時に回転してしまうので、回り止めと位置決めを兼ねた2か所の突起をそれぞれに設置しました。
天板➒と後ろ板➓もねじで固定する構造としたため、ブランク(曲げる前の平板の状態)形状は同一ですが、曲げ方向のみ逆になる2つの部品(固定側板R➌と固定側板L❹)になります。
【組立順】
筆者が想定する組立順を列記します。
1) 固定側板R➌の突起部をベース板❶に差し込み、ねじで固定します。 2) 固定側板L❹の突起部をベース板❶に差し込み、ねじで固定します。 3) 固定側板R➌と固定側板L❹の丸穴と長穴に2本の軸❽を挿入します。(*) 4) 天板❾と後ろ板❿をねじで固定します。 |
*この軸にはスペーサーやリンク板も挿入されますが、ここでは省略しています。
3) 金属製部品の図面例
実際に製図する際に必要な材質や表面処理の情報と、投影図に寸法を記入する手順を確認しましょう。ただし、寸法記入手順は、あくまでも一例ですので、設計思想の違いによって本項の通りに記入しなくても問題ありません。
3. 固定側板R❸と固定側板L❹の製図
1) 固定側板R❸と固定側板L❹の材質と表面処理
固定側板R❸と固定側板L❹は、次回に解説する天板➒と後ろ板➓をねじ止めすることで箱形状となり剛性がアップすることから、ベース板❶より薄い1.6mm厚としました。
材質:SPCC-SD 表面処理:Ep-Fe/Ni5b(光沢ニッケルめっき) |
2) 固定側板R❸と固定側板L❹の投影図例
投影図から固定側板❸と固定側板❹の寸法記入のポイントを確認しましょう(図3-5)。
固定側板❸と固定側板❹の正面図を見比べると、似たような形状ですが曲げ部の方向が逆になっていることがわかります。
3) 固定側板❸の寸法記入例
固定側板❸と固定側板❹は曲げ方向のみ異なるため、寸法の記入はほぼ同じになります。したがって、寸法記入手順は固定側板❸を代表例として解説します。
① 板厚の記入
最初に板厚を投影図の近辺に記入します。
機能的に重要な形状である軸❽を挿入する丸穴の位置を取付基準面から記入します。続いて、丸穴の直径と丸穴からの長穴の位置、角穴形状の寸法を記入します(図3-6)。
② ベース板❶の寸法記入
ベース板❶に固定するねじ用の丸穴(通称:バカ穴)と曲げ形状と差し込み部の寸法を記入します。バカ穴にしている理由は差し込みによって位置が決まるので、ねじは固定だけに使用するからです(図3-7)。
③ 天板➒の寸法記入
天板➒を取り付ける曲げ形状の寸法と固定用ねじ穴の寸法を記入します(図3-8)。
④ 後ろ板➓の寸法記入
後ろ板➓を取り付ける曲げ形状の寸法と固定用ねじ穴の寸法を記入します。
ブランクが共通であることを調達の担当者や加工者に伝達するため、「~とブランクは共通である」のような指示をすることで同じ加工業者に発注することができます(図3-9)。
<注記>
1.部品番号XXX(固定側板❹)とブランクは共通である。
2.カエリなきこと(デバリング加工可)。
4) 固定側板❹の寸法記入例
固定側板❹の寸法記入例を確認しましょう(図3-10)。
固定側板❸と曲げ方向が反対になっているだけのため、寸法記入順の説明は省略します。
ここで注意点があります。同じ抜き方向のブランクを使うため、ダレ・カエリ方向が固定側板❸と固定側板❹では逆になることです。図3-9と図3-10の図中の注記を比較すると、同じ「ダレ面」とありますが、固定側板❸では外側の面(投影図手前面)がダレ面であり、固定側板❹では内側の面がダレ面になっており外側(投影図裏面)にカエリが生じることがわかります。そのため、注記で「カエリ無きこと」を指示してカエリ面をなくすように指示しています。
<注記>
1.部品番号XXX(固定側板❸)とブランクは共通である。
2. カエリなきこと(デバリング加工可)。
まとめ
今回は、固定側板❸と固定側板❹に関連して組み立てられる軸❽と天板➒、後ろ板➓の関係を見て、固定側板❸と固定側板❹の寸法を記入する手順を解説しました。
板金部品の場合、ブランク形状が共通で曲げ方向のみ反対になる場合がよくあります。共通部品と比べて図面枚数は増えますが、大量生産品の場合はブランクが共通であることで少しでもコストダウンに寄与できる有用なテクニックですから、積極的にブランクの共通化を図りましょう。
次回は、リンク機構を構成する部品の思考過程や、さまざまな形状設計テクニックを解説します。
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共通化しつつも最終工程で別部品になるもの-共通だけど・・・共通じゃなかった!はInformation |meviy (メビー)|ミスミで公開された投稿です。